「友達ではないな」
佳苗との関係は友人ではない。
何とも微妙な関係だ。
「じれったいな。誰と過ごしたんだよ!?まさか年上美女とか!?」
広也が俺を揺さぶる。
その振動で豆腐が箸から皿に落ちた。
「そうだ。しかもおごりだ」
うまいものをタダで食べられたんだ。
自炊ができない広也にはこれほど羨ましいことはないだろう。
そう思ったが、違った。
こいつは女と夕飯を食べたことに噛み付いた。
「何!?本当に女とか?何で、お前だけそんなおいしい思いを!!」
頭を抱えて広也は呻いた。
「ああ。確かにおいしい思いをしたな」
広也とは別の意味だが、同調する。
だが、そこで不穏な空気が漂った。
「榊田。あんた馬鹿?小春の前でそんな話する?」
その言葉で、一斉に水野に視線が向けられる。
だが、その本人は自分の思考にふけっていた。
俯いて、眉をひそめている。
「そうだ、お前は小春ちゃんがいながら!」
取ってつけたようなセリフだな。
忘れてたくせに。
そこで広也の言葉は遮られた。
「もしかして、佳苗さん?」
水野は顔をあげ、聞いてきた。
「そうだ」
瀬戸の皿から食べかけのハンバーグを取る。
瀬戸の悲鳴は無視だ。
そもそも小食なんだ。
少しぐらい構わないだろう。
「誰なのそれ?小春の知り合い?」
水野は何と答えるのだろう。
少し気になった。
「私の幼馴染の婚約者。実家に帰った時にちょうど挨拶に来てて榊田君とも親しくなったの」
苦笑いを浮かべながら水野は言った。
佳苗のことを仁の婚約者だと認めている。
仁を諦めたということだ。
大きな前進だ。
「お前というやつは人の婚約者まで!何て、節操なしなんだ!!」
広也のわけのわからない怒りはさておき。