「久しぶり」
佳苗はにこにこ手を振っていた。
小さいからか、跳ねながら。
明らかに、年下にしか見えない。
雑踏を掻き分けながら、街を歩いた。
せっかく、酒が堂々と飲めるようになったんだ。
居酒屋を提案した。
酒を注文しようとすると、
「未成年なんだからダメだよ」
佳苗は口を尖らせた。
「今日で、二十歳だ。問題はない」
「今日が誕生日だったの?」
「ああ」
佳苗はわたわた慌て出す。
「やだっ!今日、小春さんと予定は入ってたりしなかった?早めに切り上げたとか」
「誕生日にこれと言った思い入れはない。まぁ。水野との約束があったなら、佳苗との約束は断ってたけどな」
手を拭きながら、答える。
腹が減った。
お互いに自分が食べたいものを店員に伝える。
頼み過ぎたような気がするが、俺は良く食べるから問題はないだろう。
佳苗は仁のマンションに一緒に住み始めたらしい。
籍は来月に入れるとか。
挙式は来年の三月。
水野の恋も本当に終わりだな。
もう、あれよこれよと進んでいく。
佳苗は水野のことを気にかけていた。
特段、変わりはないと言うと、ほっとしていた。
「仁はどうなんだ?」
「変わりはないよ。『小春はどうしてるだろうか。榊田が困らせてないと良いが』とか言ってる。今日もしっかり探りを入れてくるように言われたよ」
おかしそうに佳苗は言った。
「お前は仁が送った間者ってわけか」
「大丈夫。私は俊君の味方だから。仁の意地悪に負けないで」
拳をぐっと胸の前で握って、俺を見た。
「あんな性悪と結婚なんて。お前は物好きだな」
かなりの性悪だ。
何が何でも、俺を邪魔しようとしている。
「私もびっくりしてる。俊君にだけだよ。仁は普段男女問わず優しいし。因みに小春さんは別格、最上位」
優しい?
「少なくともあの水野を猫可愛がりするような態度は優しいとは言わない。残酷だ」