水野は相変わらずだ。


 あいつらの話を聞く限り、俺を意識してくれているらしいが、態度では変化がない。


 なら、何か仕掛ければ態度に出るのではないか?


 そう考えた。


 そして実行に移した。


 思い立ったら即行動だ。


 試しに、水野の頭を撫でてみた。


 仁がそうやると喜んでいたのを思い出して。


 忌々しいことに、仁と同じようにはいかなかった。


 目を大きく見開いて、



「どうしたの?あっ!?もしかして私の髪に何か擦り付けてる?やめてよ!」



 キッと睨みつけられ、俺は言葉がなかった。


 口元は引きつりそうになった。


 というか、実際には口元が痙攣を起こした。


 とりあえず、水野には一発拳骨を見舞ってやった。


 頭を撫でるのが、不発に終わり、次は肩を抱き寄せてみた。


 水野が持っているテキストを覗き込むふりをして、さりげなくだ。


 これなら、どうだ。


 そう思った。


 が。


 水野の肩を抱いた手を思いっきり抓られた上に、足も思いっきり踏まれた。


 さすがは空手を嗜んでいるだけあって、反応が良い。


 電光石火だ。


 抱き寄せるどころか、肩に手を置いただけで、この制裁だ。


 その時、傍にいた後輩が、ぷっ、と笑ったのを俺は聞き逃さなかった。



「元気出してください」



 そんな風に励まされ、俺はがっくり肩を落とす。


 こんなはずではなかったと。


 仁の時は頬を染めながら、この世の幸せを一人で享受していますといわんばかりだったのに。


 俺にはこれだ。


 一体、何をどうすれば良いのかさっぱりだった。


 そんな時だった、佳苗から電話がかかってきたのは。


 そして、計らずも俺の誕生日に夕食を一緒にというお誘いだった。


 佳苗はもちろん、俺の誕生日を知らない。


 というか、水野も知らない。


 だから、俺の誕生日はフリーなわけだ。


 佳苗との食事なら悪くない。


 二つ返事で了承した。