「冗談じゃないぞ。ずっと好きだった。だから俺と付き合ってくれないか」
ずっと。
水野相手に言うのには少し勇気がいる言葉だった。
仁を思い続けた時間からすると短いものだから、おこがましいと思われるかもしれない。
だけど、水野と出会ってからずっと好きだった。
だから、それで良いと思う。
鈍感な水野でもこれなら伝わるだろう。
『好き』だけなら、友人として捉えられて、
『私も榊田君が好きだよ』
にっこり間抜けな笑みを浮かべるはずだ。
逆に『付き合って欲しい』だけだと、
小首をかしげながら、『どこに?』と、古典的なボケが返ってくるに違いない。
だが、これなら伝わったはずだ。
水野は予想通り、目と口を大きく開け俺を凝視した。
この一年、俺が水野に惚れていることを隠し立てすることはなかった。
だから、思ったまま水野を特別扱いしてきた。
そんな俺を見て、周囲のやつらは彼女を溺愛してるとかなんとか言っているぐらいだ。
本当は彼女の前に、偽という文字が付くのは広也たち以外は知らない事項。
それほどあからさまなのに、本当に気づいていないのだから驚きと同時に腹が立つ。
とにかく、水野がどう出るか。
俺も水野をじっと見つめた。
俺の予想では驚いた後に顔を赤くするか、困ったような顔をするかのどちらかだ。
水野は俺から目を逸らし、俯いた。
下ろした長い髪で水野の表情が見えない。
そして、水野は髪を耳にかけながら顔を上げた。
俺の予想とは違って、水野はにっこり微笑んだ。
「ごめんなさい」
あっけなく、断られた。
笑顔で。