「で、言ったのか?お袋たちに」
「ああ。もちろんだ。美玖なんて、小春見たさにこっちに来るだとさ」
「最悪な事態だな。俺は言いつけを守ってる。それでこれか?」
姉貴を冷ややかに睨みつける。
だが、所詮は姉弟。
自分の冷ややかさと同じものを見せられても、どうってことない。
「予想しない方向へお前が転んだんだ。私たちが面白がるのも無理はない。お前が女に惚れて、あまつさえ片思いだぞ」
ああ、見事に変な転び方をした。
あいつに惚れるなんて。
簡単に諦められないほど惚れてしまっている。
「勝手に盛り上がってれば良い。水野にちょっかいかけなければ」
「美玖には言っておくさ。お前が小春を彼女にするまで待てと。で、どれくらいかかるんだ?二十歳の誕生日は二人で過ごせそうか?」
「二ヶ月でどうにかなるか」
約一年、俺の気持ちにさえ気づかないで仁に夢中な水野が相手だ。
その辺の女とは違う。
重度の鈍感さと一途さを兼ね備えた女だ。
「なんだ。情けない。一年以上片思いを通すのか。半年がリミットだぞ。私も早く小春を拝みたくて仕方がないんだ」
目を生き生きと輝かせていた。
半年か。
姉貴に紹介するつもりはさらさらないが、意識してもらえれば、何とかなるかもしれない。
なんせ、毎日会おうと思えば会える環境だ。
口説く時間は十分にある。
それに。
水野が俺を特別に思っているのは自惚れではない。
当の本人が気づいてるかは微妙だが。
とりあえず半年を目標にするか。
俺が注文したビールに手をつけようとしたら、姉貴に手を叩かれた。
ケチめ。
まぁ。
残り二ヶ月の辛抱だ。
仕方なく烏龍茶で我慢した。