「あれは佳苗が勝手にやったことだ。それに、仁はお前と仲良くしてる俺が気に食わないんだ」
水野はきょとんとした。
そして数コンマ後、花が咲くように笑った。
「それは良いこと聞いたな。榊田君には感謝しないと。仁くんがあんな意地悪言うほど私を思ってくれているなんてね」
苦々しい気持ちになる。
本当にこいつは無神経だ。
「まだ仁中心主義なのな。今の発言、少し失礼過ぎないか?俺は仁のお前への思いを量る道具か?」
嫌味を言いたくもなる。
膝に顎を乗せていた水野は、慌てて顔を上げた。
「ごめんなさい。そう言う意味じゃないの」
水野は眉を下げながら俺の顔をじっと見つめた。
惚れた弱みで、そうやって見つめられると何も言えなくなってしまう。
これが、俺が水野に甘いって言われる原因だ。
「別に。お前が俺のことをそんな風に思ってるなんて考えてない」
言い方が癪に障っただけだ。
「私がこんなだから、佳苗さんを選んだんだよね」
独り言のように水野がこぼした。
言った矢先にこれだ。
こいつは学習能力がない。
それが仁中心主義なんだ。
本当に、うんざりする。
「お前が、破局に追い込めるチャンスを捨てて応援したんだろ。今更、後悔してんのかよ?」
少し口調がキツくなる。
「まさか。確かに、私が頼めば佳苗さんと別れてくれたし、私と結婚してくれた。でも、私が欲しかったものではないから」
「ふーん。付き合ってもらって、惚れさせれば良かったのに」
水野と仁がくっ付くことがない今だから、こんな発言もできる。
「くだらないかも知れないけどプライド。佳苗さんには敵わないってわかったから。負けを認めたのに、お情けに縋ることはできない」
水野は馬鹿で鈍感で無神経だけど、こういうところが良い。
こいつを好きになって良かったと思える瞬間だ。
何でこいつ、と思う瞬間のほうが多いけど。
だが、こういう姿を見ると、そんなものはどこかに吹き飛んでしまう。
「お前は、しつこくも、潔いやつだな」
水野はおかしそうに笑った。