「また遊びに来てね」
おばさんはうっとりと目を細め、俺は曖昧に頷いた。
どうせなら、水野にこんな風に見つめられたい。
そんな失礼なことを思った。
指定席をおばさんが取ってくれていたから水野に窓際を譲って、俺は通路側に座り、さりげなく仁の話題を出してみる。
「お前、もう仁は諦めたのか?」
「うん。佳苗さんなら仕方がない。私じゃ無理よ」
水野は苦笑した。
「佳苗のこと散々言ってたくせに、どうしたんだ?」
「佳苗さんと話して、仁くんが彼女を選んだ理由がわかったの。それに榊田君に『佳苗』なんて呼ばせる彼女に勝てないよ」
ずいぶん、俺が佳苗と呼ぶことに驚いているようだった。
「ずいぶん、それに拘るな」
確かに、水野たちは苗字だから違和感を感じるのかもしれない。
「私、妬いてるのかも」
少し考える仕草をして水野はそんなことを言った。
「お前な、そういう冗談はよせ」
ため息を吐いた。
真顔で、そう言われると水野に気がないのはわかっていても期待してしまう。
「冗談じゃないよ。仁くんにも榊田君にも好かれる佳苗さんが羨ましい。二人とも私といる時間のほうが長いのに」
なんだ、そういうことか。
水野はブーツを脱ぎ、膝を抱え込んだ。
スカートなのに、よく平気でできるな。
俺に少しは気を遣え。
ついつい視線が足に向いてしまうのは男の性なのだと思う。
「佳苗は良いやつだ。はっきり言って仁にはもったいない」
「榊田君がそんなだから仁くんと喧嘩になるんだよ。婚約者が他の男の人と仲良くしてたら気に食わないでしょ?みかんを食べさせてもらうなんて言語道断よ」
なんか、大きな勘違いをしてる。
鈍感だから仕方がないか。