新聞を読んでいるおじさんに尋ねてみた。
「一体、水野のあの変わりようは何なんですか?」
「仁だろ」
おじさんは、そっけなく答えた。
「それはわかります。何をしたらああなるのか」
「私だって、知らん。昔から小春は『仁くん、仁くん』が口癖で」
おじさんは新聞から顔を上げ、俺に訴えた。
「『仁くんの似顔絵描いたの!』とか、『仁くんと一緒に寝る!』とか、『仁くんのお嫁さんになる!』とか、私はみんな仁に楽しみを持っていかれたんだ!!」
拳を握り大演説だ。
「はぁ。想像がつきますね」
昔というより生まれた時から仁中心だったのかもしれない。
「だから諦めた。仁を睨みつけたら小春に嫌われるし、あいつに対抗するだけ無駄だ」
おじさんに意味深な視線を送られる。
だから、仁と張り合うな、と言いたいのだろう。
というか、水野にちょっかいをかけるな、ってところか。
水野に近づく男は気に入らないらしい。
親馬鹿だ。
「あら?あなたと違って俊君は格好良いもの。対抗できるかもしれないわ」
おばさんはみかんを口に放りこみながら言った。
朝食前だというのに。
「小春は顔で選んだりしない!」
おじさんは俺を睨む。
おばさんのせいで、またも敵意を持たれた。
「顔だけでなく、オールマイティーだもの。仁くんを諦めて、次の相手は俊君しかいないわ」
「それは母さんの願望だろ!小春が決めることじゃないか!」
「そうよ。仁くんをずっと見てたら、もうランクは下げられないわ。だから俊君が最有力だって話をしているだけよ」
二人の言い争いに付き合っていられない。
俺はおじさんの読みかけの新聞に手を伸ばした。
今日の天気は良好。