寝起きの良い俺が目覚めたのは6時少し過ぎ。
隣を見ると、仁が寝ていた。
俺に背を向けて。
蹴飛ばしたくなったが、それより水野だ。
水野は寝ているに違いない。
朝が苦手な上に、遅くに帰って来たのだろうから。
とりあえず、着替えて下りていくと台所から物音が聞こえた。
のれんをくぐり、その人物と目が合った。
おばさんかと思いきや水野だった。
「あっ、榊田君!おはよ」
にっこり笑いかけられた。
呆けながらも挨拶を返す。
おいおい。
本当に、仁がどうにかしたらしい。
何だって、昨日自殺しそうなほど追い詰められたやつが、こんな笑顔なんだ?
どうすれば、こうなるんだか。
俺は深いため息を吐いた。
吐きたくもなる。
俺が今まで水野を励ましてきたことは、無意味に等しい。
仁は数時間で絶望から救い上げ、水野に笑顔を取り戻させた。
水野の中での仁の存在の大きさと、俺の存在の小ささを思い知らされる。
「どうしたの?朝からため息吐いて」
「水野はご機嫌だな」
鼻歌なんか歌いながら長ネギを切っている。
「今日、佳苗さんのご両親に会いに行くんだって。肝心なところだから気合をいれて朝ごはん作ってるの!」
ますますわからん。
仁は諦めたのか?
そう聞きたかったけど、振れて良いことなのかわからなかった。
傷つけない保障はない。
「ふーん。お前が気合入れても仕方ないだろ」
お味噌汁の具は豆腐になめこか。
「そんなことないよ。私も応援してるってわかったら仁くん喜んでくれるもん!」
付き合いきれない。
俺は顔を洗いに洗面所へ向かった。
しばらくすると、仁以外は下りてきた。
佳苗が水野を手伝っている。
気になって、覗いてみると水野が卵焼きを伝授している。
仁が好きな味付けを。
この心境の変化は何なんだ。