一時半の鐘を時計が鳴らした。


 仁が家を出て行ってから一時間近くが経とうとしている。



「あいつ、水野見つけられてないんじゃないですか?」



「それはないわ」



 心の中でため息を吐く。



「ずいぶん信頼してるんですね」



「だって、仁君には実績があるもの。そう妬かないの」



 おばさんは弧を口に描いて言った。



「あの二人はね、本当に仲が良かったの。ずっと一緒にいたから、何となくお互いにわかっちゃうのよね」



「あそこまでべったりな幼馴染になんていませんよ」



 呆れてしまうくらいだ。


 水野だけでなく、仁も水野大好き病だ。


 好きの種類が違ったにせよ。



「時間だけでなく、それだけ重たいもの積み重ねて来たのよ。出会ったばっかりのあなたが仁君に敵わなくたって当然よ。私だって敵わないもの」



 自慢げに言うことではないのに、おばさんは胸を張っている。


 俺も佳苗も苦笑した。



「ここで待っていても意味がないですね。俺寝ます」



 今日の昼には仁は出て行く。


 だから、この瞬間だけは仁に譲ってやろう。


 これで朝、水野が前みたいに笑うようになっていたら良い。


 気に入らないが、喜ばしいことだ。



「そうね。もうあの二人はほっといて寝ましょう」



 三人一斉に立ち上がった。


 二階に行くと、俺の部屋に布団が二組敷かれていて、がくりと肩を落とした。