「小春だって、いつまでも、このままで良いとは思ってないわよ。話すことで、少しは変わるかもしれないでしょう?」
「悪化したらどうするんだ!?」
水野が平気な顔をして佳苗と話せるわけがない。
そんなやつに話しかけられたら。
おじさんの心配に同意する。
かといって、水野を一人で外に出すのは危険だ。
前科がある。
「それは、平然と見送った仁君に責任を取ってもらいましょう」
おばさんにつられ、俺も仁を見る。
「黙って佳苗さんを行かせたからには、何かあるんでしょう?」
おばさんは好奇心に目を煌かせ、仁を覗き込んだ。
「まさか。佳苗の行動は俺にもわかりません」
仁は肩をすくめ、おかしそうに笑う。
余裕の表情だった。
「ふふ。それは楽しみね。タイムリミットまでそう時間がないわよ?」
おばさんは完全に成り行きを楽しんでる。
「小春のことを全ては知らないかもしれません。でも知ってることもたくさんあるんですよ?小春が今、何を思っているのかわかってるつもりです」
「また自惚れ?仁君も懲りないわね」
「自惚れかどうかは明日の朝を見ていてください。お前はさっさと寝ろ。出番はないから」
仁が俺を一瞥した。
「そうだ。俊君の部屋にもう一組お布団敷くから」
「え?こいつらと部屋交代ですか?」
仁を睨みつつ、おばさんに尋ねる。
「仁君と相部屋よ」
おばさんの発言に俺はテーブルを思いっきり叩いた。
仁も飲んでいた茶に咽せて咳き込んだ。
さっきまでの余裕顔が消えて、ひどく焦りだした。
「おばさん。どういうことですか。何で、俺がこんな無神経男と」
「俺のセリフを取るな、ガキ。俺は佳苗と相部屋で」
「何言ってるんだ。結婚前の女性と相部屋にするわけにはいかないだろ。向こうの親御さんに申し訳が立たない」
おじさんの貫禄ある姿をはじめてみた。
「だからって、これはあんまりですよ。こんなガキと一緒なんて」
「仁。お前、車で寝たらどうだ?」
「呼び捨てにすんな。それならお前がかまくらでも今から作ったらどうだ?意外と中は温かいぞ」
「それは二人の自由。だけど、居間で寝るのはダメよ。私、お風呂入って来るわね~」
おばさんはにっこり微笑んで、俺と仁を奈落へと突き落としたまま去って行った。
俺たちはしばらく動けず、固まっていた。