「私が言うべきことじゃないでしょ?仁君が小春の恋心に気づかないからって私が言って、どうなるの?」
「それはそうですけど。でも、こっちも条件反射なんですよ。小春を甘やかすのは。もう身体に染み付いて、どうにもなりません」
「開き直ったな」
俺は茶をすすりながら言った。
「お前、小姑みたいだな。陰険で」
仁は眉を吊り上げながら言った。
「お前は性悪だよな。水野のためにどん底のどん底の穴まで掘ってやるんだから。恐れ入る」
仁は、ははは、とから笑いをした。
「いや、大したことないさ。まぁ。お前にしたら、俺の影響力のでかさを目の辺りにしたんだもんな。自分の立ち位置をしっかり掴めただろ?ただの友達で異性であっても男ではないって」
面当て合戦だ。
三人が呆れて見ている中、俺たちは、はっはっは、と笑った。
口も目も引きつらせながら。
どす黒いオーラが俺たちを取り囲んでいた。
「わかってるじゃない。仁君。あなたは小春に影響力がありすぎる。だから慎重に接するべきだったのよ。それに、小春だけでなく佳苗さんにも失礼な言動よ。反省しなさい」
手厳しい言葉に笑いをぴたっ、と止める。
おばさんの影響力もある意味絶大だ。
それに、あわあわ仁の婚約者がし出した。
「い、いいえ。仁の小春さんの溺愛ぶりは知っていますから」
「悪かった。ごめん」
仁が謝ったのを、婚約者は苦笑で受け止める。
「気にしてないわよ。二人の中には不可侵の領域があるって言うことはわかってる」
「寛大なお嫁さんに感謝なさい。仁君。自惚れてたでしょ?小春のことは何でもわかるって」
「返す言葉もありません」
「小春の言う通り、一緒にいたからこそわからないこともあるのよ」
「肝に銘じておきます」
仁がうなだれた。
殊勝な態度だ。
さすがはおばさんだ。