せっかく精一杯の勇気を振り絞って、ここに座った水野にこの仕打ちはひどかった。


 傷を抉るようなことを平気で言う。


 おばさんに、視線で訴えるが気づかないふり。


 おじさんもおばさんを肘で突っつくが気づかないふり。


 腹は減っているのに、この場の空気で、ばくばく食べることはできない。


 そんな空気を変えたのは仁だった。


 仁が水野に自分の焼き魚をやった。


 それから二人の過去話に話題が移る。


 仁は水野を溺愛していたらしい。


 仲が良い?


 ただのブラコンとシスコンじゃねぇか。


 そう思ったが、水野を傷つける言葉だから言わない。


 そして、わかった。


 水野に思わせぶりな態度を取った理由が。


 鈍感なこいつも俺と同時に気がついたようだった。


 もっと早く気づけよな。


 俺は会って数時間で気づいたのに。


 魚の目に水は映らない、ということだ。


 思うままに言ったら、それを聞いた水野が笑い出した。


 泣きながら笑い出した。


 前提条件は重要だった。


 水野は仁は自分のことを何でもお見通しだと言っていた。


 でも、それは間違いだった。


 俺も仁は水野の気持ちに気づいていると思った。


 仁の話をする時が一番輝いていたから。


 仁と話す時はもっと、もっと、良い顔をするんだろうな。


 そう思っては嫉妬していた。


 そんな顔を見せられて気づかないはずがないと思った。


 だけど、仁にしてみれば。


 水野の自分を見つめる表情や眼差しは、昔から何も変わらなかったんだ。


 水野はずっと、ずっと昔から仁だけを見てきたから。


 仁はずっと、ずっと、そんな眼差しを見てきたから、それが当たり前で。


 水野の恋心に気づかなかったんだ。


 やっぱりここでも泣いている水野に俺は何も言えなかった。


 仁は俺を睨みつけた。


 俺が泣かせたとでも思っているのか?


 お前だよ。


 もう我慢ならなかった。


 殴ってやる。


 そう思った時。


 水野が口を開いた。