予想した通り、おじさんの声かけは不発に終わった。
おじさんはしょげながらこたつに入り込んだ。
「小春は平気だろうか?『お父さんなんて嫌い』とか言われたらどうすれば!」
ぶつぶつ言いながら仁と一緒に頭を抱えていた。
俺は読みかけの本を読んでいた。
だけど内容はちっとも頭の中に入ってこない。
水野が気になった。
様子を見に行こうと思った矢先に、仁の婚約者が夕食の準備が整ったことを告げにきた。
キッチンから聞こえた、この婚約者の悲鳴からして足手まといだったのは確実だ。
下ごしらえをおばさんがしていたのに、こんな時間までかかるとは、本当にどんくさい。
「小春は来ないだろうな」
おじさんが寂しそうに呟いた。
水野だって、仁とその婚約者と一緒に夕食なんてごめんだろう。
だから、おばさんに水野の夕食を部屋に持って行くと言ったら、
「食べたいなら、下りてくれば良い話でしょ?あの子のわがままに付き合う必要がどこにあるの?」
鬼だ。
この場に来いだなんて、鬼の言う言葉だ。
「俺が呼んできます」
仁がおばさんに申し出る。
「役立たずは引っ込んでろ。様子は俺が見てくる」
言うや否や俺は障子を開けた。
早い者勝ちだ。
水野は布団を被っていた。
さっきよりもさらに小さく見えた。
一人で何かに耐えているようだった。
水野はいつも前を向いていた。
まっすぐ。
自分に自信を持っていた。
だから、輝いて見えるのだろう。
今の水野は、自信をなくしている。
仁なんかと、くっ付かれたら困る。
会わないで欲しい。
だが、今の水野を見ていたら背中を押してやりたくなった。
自分を卑下して欲しくなかった。
俺が惚れた女だ。
その惚れた女を侮辱するのは当の本人でも許せない。
当の本人だからなおさら。
水野には堂々と仁の前に立って欲しい。
恐怖があるだろう。
でも、虚勢でも良いから胸を張っていて欲しい。
水野は、下りてくると言った。
仁に会いたいと。
気に食わないけど、立ち向かおうとしている水野を励ますように肩をぽんぽんと叩いた。