それから少し経った頃だった。
水野はその初恋のヒーローを追いかけて上京してきたということを知った。
その初恋ヒーロー兼幼馴染は三原仁。
通称『仁くん』らしく、それはもう重苦しいほどの愛情籠る語り口。
内緒話をするように小声で。
ふわふわ笑いながら仁のことを話した。
面白くない。
だけど、水野が嬉しそうに話す姿を見ると何も言えなかった。
本当に幸せそうに話すのだ。
俺が、嫌な顔をすれば仁の話はしなくなるだろう。
でも、悲しげな姿は見たくないし。
仁の話でも、水野が笑っている姿を見るのは気分が良かった。
それとほとんど同時期、水野が俺たちの関係を誤解されていることに気づいた。
俺たちが付き合っているという噂に気付いたというわけだ。
とにかく鈍感なやつだ。
今頃、気づくなんて。