もう水野は俺のことなんか視界に入っていないようだった。
震えも止まり、呆然としている。
水野のためにできることはない。
とりあえず、一階に下りた。
居間で三人が談笑をしていた。
「あら?俊君。こちら紹介するわね。小春の幼馴染の三原仁君と婚約者の伊藤佳苗さんよ」
にっこり笑って挨拶なんてできるはずがない。
今すぐにでも仁を殺してやりたいぐらいなのだから。
仁は、気に入らないというように目を細めた。
「お前が小春のお友達とやらか」
水野の話す仁とは違った。
俺を皮肉るような物言いだ。
ああ。
お前のせいで友達だ。
俺が水野の恋人とは微塵も思っていやしない。
当然だ。
自分に惚れているのを知っているから。
それなら、何で水野に気がある振りをした?
「お前の噂なら水野から聞いてる。ずいぶん印象が違うがな」
こんなやつに敬語を使うどころか、敵意を隠す必要さえない。
やっぱり仁は皮肉な笑みで俺を見た。