何もかもを投げ出してしまう程、仁の存在は大きいんだ。
許せなかった。
八つ裂きにしてやりたい。
あのまま水野が雪に埋もれたままだったら。
間違いなく殺したのは仁だ。
こんな風になるまで追い詰めたのは仁だ。
それなのに水野は仁を庇う。
殺したいくらい憎いのに庇う。
まだ、好きなんだ。
そんな男でも。
好きだから庇う。
好きだからこんなにも泣く。
何もかもに絶望している泣き方だ。
泣いている水野に言葉が出なかった。
慰めの言葉なんて存在しない。
ただじっと水野を見ているだけだった。
全部を失ったんだ。
拠りどころを失った。
だから、こんなになるんだ。
そら見ろ。
仁のことしか頭にないからこうなるんだ。
まっすぐにしか進まないから、大怪我をするんだ。
もう少し賢くなれよ。
逃げ道をどうして作らない?
もっと上手く立ち回れ。
いつもそう思っていた。
何もかも直球勝負だから、こんなにもぼろぼろになるんだ。
そうは思っても、アドバイスはしなかった。
それは、こういう水野が好きだからだ。
まっすぐで、ひたむきな姿が。
傷ついてもそれでも曲げない、頑固さが。
揺るがないところが。
そして、好きなものを好きだときっぱり言い切れる。
打算や狡さがない潔い、強さが。
そんな水野が好きなんだ。