水野を実家に送るべく一緒にシャトルバスに乗るが、水野はしきりに追い払おうとするから無視をし続けた。
俺がまともに水野と口を聞いたのは、電車に乗ってから。
この状態で、スキーなんて楽しめるか。
俺のこの不愉快さを打ち消すには、水野の話を聞くのが絶対条件だ。
今度こそ何があったかを聞き出し、手助けしてやりたい。
だが。
手助けしてやりたいが、仁との仲を取り持つようなことはしたくない。
それは俺にとって痛手だから。
仁とくっ付かないようにしつつ、いつものように笑って欲しい。
無理な要求なのは承知だ。
とりあえず、何があったかを知るのが先だ。
それから上手い落とし所、すなわち俺の理想に一番近い所を探す。
そんなことを考えながら、水野の言葉に耳を傾けた。
聞いた瞬間、唖然とする。
水野の言った言葉が信じられなかった。
仁に恋人?
結婚?
水野の顔には表情がない。
必死に押し殺している。
だが、押さえきれない怒りを感じているのがわかった。
水野がいるのに別の女と結婚?
水野がどれほど仁が好きなのかは知っている。
仁のためだけに生きてきたようなやつだ。
気持ちを知っていながら、どうしてそんなひどいことができるのだろうか。
仁のことを話す水野はすごく良い表情をする。
仁がその場にいなくてもそうなんだ。
仁にはどんな風に笑いかけるのだろうか。
そう思っては仁が妬ましかった。
自分に向けられる視線で水野の気持ちなんてわかるはずだ。
それで思わせぶりな態度を取ってきた。
この一年間ずっと。
どれだけ水野を傷つけるのかわかってやったのかだろうか。
ただの失恋とはわけが違う。