「瀬戸。忠告してやる」
「何?」
瀬戸は微笑を浮かべたまま、目を細めた。
「嫌味な女はモテないぞ」
「嫌味じゃないわ。容姿抜きにしても、すぐに陥落させるくらい女の子の扱いが上手ね、って褒めたのよ」
「女の扱い?そんなこと考えたこともない」
瀬戸は両手を上げ、大げさに驚いて見せた。
「さすがは榊田君。天性の才かしら?」
天性の才があるなら、水野とすでに付き合っているに違いない。
「馬鹿馬鹿しい。何が言いたいんだ?」
「このままじゃ、ずっと『優しい榊田君』で終わるよ、って言いたい」
口調はとぼけているのに、目だけ至って真面目だ。
「そんなことは、わかってる」
ソファーにずるずると沈み込み、安っぽいシャンデリアを眺める。
「小春ちゃんには榊田君のさりげなく作戦は通用しないみたいだし」
「そんな作戦立ててねぇ」
「そうだった、無意識に特別扱いしちゃうんだったね」
「…………」
「ちゃんと気持ちを伝えたほうが良いよ。そうしないと何も変わらないよ。これは忠告のお返し」
悪戯っぽく笑い、瀬戸は席を立った。
どいつもこいつも余計なお世話だ。
水野のおせっかい病が蔓延している。
由々しき事態だ。
瀬戸は知らない。
水野の中での仁の存在の大きさを。
気持ちを伝えたところで、どうにもならない。
迷惑がられるのがオチだ。
水野には仁がいる。
二人が手を取り合う日が来れば。
俺はずっと水野の中で『優しい榊田君』なのだろう。