本当に、仁だけだ。


 何も見えていない。


 俺のことだって、俺を通して仁を見ているに過ぎない。


 見ているのは仁だけだ。


 一緒に過ごしていても。


 おいしいものを食べれば、仁と食べたいと思い。


 俺といながら、仁とこれだけ一緒にいられたらと思い。


 仁なら、何て言うのだろう?と考えている。


 そういうやつだ。



「水野。お前は何にも見えてないのな」



 もう怒りはなかった。


 思い知らされなくても、わかっているのに。


 どうして、いつも思い知らされるのだろうか。


 打ちのめされるのだろうか。


 何度でも水野にとっての仁の存在の大きさを思い知る。


 こいつを好きな限り、ずっと。


 仁を呼びながらすすり泣く声が聞こえた。


 こんな女を今、この瞬間でも心配しているし、好きだと思っている。