「でも、確かに以前より遠慮ないのは認める。そうだよね。榊田君に甘え過ぎてる。いつも優しいから、調子に乗ってた」



 水野はごめんなさい、と頭を下げた。



「いや、俺だけなら良い。遠慮なく甘えて良いし、寛げ」



 そう言いながら、布団と枕をベッドから引き摺り下ろした。


 水野のまん丸い目が、見る見る大きくなり、俺を凝視した。



「……良いの?」



「良い。他の男なら問題だが、その辺りを弁えてるなら何も言わねぇよ」



 もう水野と過ごすうちに俺の感覚も麻痺し、俺だけなら良いかと思ってしまうのだから恐ろしい。


 普通、昼寝に布団と枕を貸すなんてありえないのに。



「もちろんだよ。そんな命知らずじゃないわ。誰だって男の人といたら無意識にでも、警戒するものよ?」



「普通はそうだ。お前は、普通には見えない。性善説を唱えるしな」



 こいつは、やっぱり俺のこと好きだろ?


 絶対そうだ。


 自惚れではない……はずだ。


 仁と似てるとか言ってるし。



「それとこれとは話が別!」



 良し、とりあえず言ってみよう。


 何度も期待を裏切られたが、懲りずに挑戦だ。



「水野のことが好きだ。やっぱり、俺は期待しないほうが良いか?お前のこと、諦めたほうが良いか?もう仁のことをとやかく言ったりしない」



 どっちにしても、諦めるつもりはない。


 ただ、諦めて、なんて言われたらショックで食事が喉に通らなさそうだ。


 水野の卵焼き以外。



「あのね……」



 もう恒例になっている、突然の告白に水野はさほど驚いた様子もない。


 それほどまでに恒例化してしまったとは、何とも情けない話だが。


 しかし、今回はもう一つの恒例、ごめんなさい、が出てこない。


 黙って耳を傾ける。


 先を急かしてはいけない。



「もう少し待って。私がお願いできる立場ではないけど。待ってて欲しい」



 俺は反射的に勢い良く、水野の手を掴む。


 が、思いっきり振り払われた、警戒心丸出しだ。


 おい、俺には警戒心ないんじゃないのかよ?


 仕方なく、手を引っ込める。