俺はオレンジジュースが大嫌いになった。


 というか、オレンジが大嫌いになった。


 だが、仁を認めた。


 もう嫌いになる必要はない。


 それに、水野の無神経な言動の七割は仁がらみ。


 三割は俺に対する思わせぶりな言動。


 仁を認めることによって七割の苛立ちは解消される。


 俺、いや、男に対して無防備なのも、苛立ちの対象だ。


 とにかく、無防備過ぎる。


 男の家で昼寝はするし、泊まろうとするし、男の布団に勝手に潜るし、男の家の風呂に躊躇いなく入るし、キスも普通に受け入れるし……


 列挙するだけで、時間がかかるから割愛だ。


 水野は相変わらず、昼寝をする。


 それは変わりない。


 しかし。


 きっとこれは、先日、俺の布団で一日中、寝こけていたのが原因だ。


 何でも俺の布団の寝心地が良かったらしく、昼寝の布団と枕を所望したのだ。


 一応、許可を取ろうとするところは評価をしてやろう。


 だが、ため息を吐く。



「お前な。おかしいぞ?」



 こいつの頭はおかしい。


 俺じゃなかったら、確実にアウトだ。


 いや、水野のことだから回転地獄蹴りを見舞うか。


 だが、そういう問題じゃない。



「ダメなら別に良いの。ごめんなさい。いつも通りに寝るわ」



 水野は眉を下げて、ぺこぺこする。


 全然、わかっていない。



「そういうことじゃねぇだろ。俺だからともかく、他のやつだったら確実に襲われてるぞ。どうして、そう危機感がないんだ?男を警戒しろ!」


 水野の頭をぺしり、と叩くと水野は口を尖らせ、乱れた髪を手櫛で整える。



「他の男の人にするわけないでしょ!?私、そんなにふしだらじゃない。広君だって二人きりの時に家に上げたことないわ!」



 広也は、その辺りは弁えているから当然、そんな状況にはならないだろうが。



「他だって同じ。やましい理由云々関わらず、誘われたって断ってる!馬鹿扱いしないでよ!」



 水野は、俺を睨みつけた。



「……一年の頃から俺の家には来るし、平然と自分の家に上げてるじゃねぇか」



「榊田君は、仁くんに似てるんだもん。仁くんに似てる人に悪い人はいないわ。だから、榊田君は別。これまで何の問題もなかったし。私の勘は正しいじゃない!」



 あんな胡散臭い笑みを浮かべる仁とクールと言われる俺が似ている?


 仁と面識がある今では全力で否定する事柄だ。


 しかし、ものすごく癪に障るが納得がいった。


 なるほど、だから付き合いの浅かった時でも夕食に招待したわけか。


 仁の実験台に、仁と似ている俺をターゲットにしたのも、単純な水野の思考を考えれば頷ける。


 納得したからと言って、気に食わないのは変わりない。


 だが、今はその不愉快さを押し止める。


 こいつと付き合っていく上では仕方あるまい。


 ポジティブに考えることを心がけなければ。


 つまりは、俺が例外的で他の男の場合にはしっかり警戒心を持って、接しているわけだな。