「俺と水野が破局して、その後釜でも狙ったのか?どっちに転んでも盗撮が趣味の上……」
「俊。そこまでにしてやれ。小春ちゃんとの関係に亀裂が入ったわけじゃないんだ」
「水野さんが好きなあまりの行動なんだから。水野さんに叱られるぞ。って、そういえば水野さんは?」
「残念なことに、小春は今日はバイトないわよ」
上原は大きなため息を吐いた。
そう、水野がいない。
つまりは俺の独壇場というわけだ。
「橘。水野は馬鹿だが、お前みたいな下劣な盗撮男と付き合うほどは馬鹿じゃない。お前に似合いなのは馬鹿の格下……」
そこで橘が、飛び掛ってきた。
愚の骨頂。
飛んで火に入る夏の虫だ。
俺はそれをひらりと避け、すれ違いざまに腹部に強烈な膝蹴りを見舞う。
ぐげぇ、っと奇妙な声を出し、橘は沈んだ。
もちろん、一瞬の出来事だ。
最短で、成果を出すが俺のモットー。
俺は沈んだ橘を見ることはせずに冷蔵庫を開ける。
瀬戸のプリンがある。
榊田君は食べるの禁止とか蓋に書かれてあるが、俺が食べるのは中身だ。
蓋ではないから問題はないだろう。
「おいっ!橘、大丈夫か!?俊、弱い者いじめだぞ!?」
「あ~!!何で肝心な時に小春はいないのよ!?あんた、確信犯でしょ!?」
広也と上原が喚いているが、水野はいないのだ、俺を止めることは不可能。
というか、もう後の祭りだ。
「そいつが俺に喧嘩を売ってきたのが悪い」
俺はプリンを口に放り込んだ。
ギャラリーは、俺を呆れ顔で見つつ、橘に哀れむ視線を送っていた。
この出来事は広まり、水野をあわよくば、と考える不届き者は消え失せるだろう。
見せしめに一人、血祭りに上げた効果は絶大。
これで俺と水野も安泰とゴミ箱に食べ終わったプリンを投げ捨てた。