「携帯、弁償してください」
塾の冷蔵庫を開けようとすると、橘なんとかが俺に話しかけてきた。
ああ。
そう言えば、真っ二つになったな。
「お前にも原因がある。請求書持って来い。半額だけ出してやる」
水野に感謝するんだな。
あいつと元通りになれなかったら、携帯がお陀仏どころじゃない。
お前がお陀仏だったぞ。
今の俺はご機嫌だから、半額ぐらい払ってやる。
「本当にあの人、お姉さんですか?俺にはそうは思えません」
疑わしげに橘は見てくる。
「お前にどう思われようと知ったことか。おい。それより、もう水野にちょっかいかけるな。相手にされてねぇんだから、他当たれ」
「その自分の所有物みたいな言い方やめてもらえません?」
ここはバイト先で、女を取り合う場所じゃない。
だが、こいつには釘を刺しておかなければと思って言ったら、反抗的な態度。
周りがニヤニヤと面白がって見ているから、早く終わらせたかったのに。
素直に頷けよ。
しかし、ここで打ち切るわけにはいかない。
あの水野の無防備さを考えれば、他の男を近づけるのは危険だ。
「それもお前には関係ない。しかし、お前も馬鹿だよな。大勢の前で盗撮趣味を自ら暴露するなんて。そういえば、あんな風俗街にお前こそ何の用だったんだ?」
まだ俺に歯向かう気力があることだけは感心するが、余計な気力だ。
本当に馬鹿なやつだが、これは良い機会かも知れない。
水野に手を出したらどうなるか、見せしめる機会に。
橘の顔がみるみる赤く染まっていくのを見ながら続ける。