「で、その同郷の彼女とやらを置いて、二人で飲みに行ったわけか?」



「深雪ちゃんが二人でどうぞ、って言うから。私、信頼されてるの。私の後輩でね。私が憧れだったらしいの!」



 水野はきらきら目を輝かせた。



「その憧れも、昨日のお前の醜態を見たら……」



「あ~あわわ。聞こえな~い!!」



 都合の良い耳だ。



「私、これでも、すごく女の子に人気あったんだよ?ミス小春なんて呼ばれてね」



 ふふふ、と得意げに笑みをこぼす。


 ずいぶん目出度い頭がそろった、町で育ったんだな。


 ミス小春?


 違う意味で、ミス小春だ。



「それも昨日のお前の醜……」



「あ~あわわ。聞こえな~い!!と、とにかく、ごめんなさい。でも、一昨日庇ってあげたでしょ?それに免じて。もちろん、お礼はするから。何でも言って」



 ぐっと、喉が詰まる。


 一昨日だ。


 その関門が俺には残っている。


 これを乗り越えなければ、俺の可能性は消えてしまう。



「あのだな。あの写真のことなんだが」



 水野が肩をびくりと震わせた。



「違う。あの女とは何でもない。信じてくれ」



 俺は水野の手を握り、視線を合わせた。


 水野は大きく目を見開いて俺を見つめ返す。


 嘘を吐くんだ。


 目を逸らすな。


 首筋を掻くな。


 そう自分に言い聞かせる。



「あの女は姉貴の高校時代からの同級生で、この間、飲んでたら偶然会ったんだ」



「お姉さんのお友達なの?」



「疑うんなら姉貴に聞いてみろ。で、一緒に飲んでたら、お前みたいに体調崩したから介抱してたんだ」



 落ち着け。



 いつもの口調で話せ。



「で、あの女は誰にでも、ああするんだ。外人みたいなスキンシップを」



「帰国子女か、外人さんと付き合ってたのかな?」



「そんなとこだろ。とにかく、何もやましいことはしてない。作り話に聞こえるかもしれないが本当のことなんだ」



 水野の手を強く握ると、一瞬驚いたように震わせた。


 でも振り払われることはされなかったから、ほっとする。