「うむ。じぃの働き見事であった。褒めてつかわす」



 水野は冗談と受け取り、冗談を返してきた。


 俺はそれに鷹揚に笑える……


 わけがない。



「お、お、おま、お、おま、え」



 痙攣も末期症状になり、言語機能に障害が起こった。


 そんな俺を見て、水野は取り繕うように笑いつつ、眉を下げた。



「そんなに怖い顔しないでよ。良い男が台無しよ?ごめんね、迷惑かけて。このお返しはしっかりするから」



 これをどう返すつもりだ。


 俺の恋人になること以外では返せないほど、多大な迷惑だ。



「……お前、どこまで記憶がある?」



「う~ん。だいたいおぼろげに覚えてるかな?」



 頬に人差し指を押し当て、首を傾げた。



「そうか。ならお前は路上で吐いた上に、俺に嘔吐の処理をさせ、ファミレスで、四回も……」



「あ~あわわ。聞こえな~い!!」



 水野は耳を塞ぎ喚く。


 広也と同じだ。


 俺はため息を吐き、声を低くする。



「あの男は誰だ?」



「あ~寛太?同郷なの」



 予想通りの答え。



「お前は、同郷ならほいほいと男の家に泊めてもらうわけか?襲われても文句言えないんだぞ!?」



 俺の怒りに、身を小さくしながら、反論した。



「寛太、彼女と同棲し始めたの。その引越しの片付け手伝ったのよ。私だってそんなに考えなしじゃないわ」



 は?


 あのガキ大将もどきが、彼女と同棲?



「つまり、お前は彼女が一緒にいるから泊まろうとしたわけか」



「そう!その通り!」



 水野は大きく頷いた。


 何を偉そうに。


 まぁ。


 許容範囲だな。


 だが、



「お前、おぶってもらおうとしたよな?」



「うん。だって、あの時、気持ち悪くて歩けなかったから」



 平然と頷く水野。



「それは、何とも思わないわけか?」



「だって、寛太力持ちだもの。私一人ぐらい、どうってことないわ」



 馬鹿水野。


 女の自覚なし。


 どれだけ密着すると思ってんのか。


 ガキのおんぶとは違うんだ、自分の体型を考えろ。


 この辺りのことを、こいつに説くのは、かなり難しい。


 俺が、変態扱いを受けかねない。


 リスクは負えないと俺は説得を諦めた。