買ったばかりの上着を。
いや、正確には姉貴に買ってもらったばかりの上着ではあるが。
あろうことか、二度も踏みつけ、おまけに丸めて、枕!?
何という、厚かましさだ。
俺は水野から上着を奪い取った。
頭が投げ出され、水野はうっすら目を開け、
「う~う~」
訳すと、何するの!?そう怒っている。
なかなか良い度胸だ。
俺の口元と眉の痙攣は加速する。
そこで水野は力尽き、自分の腕を枕にして身を丸めた。
だが、寝づらいようで体勢を何度も変える。
俺は可哀想になってしまい、結局しぶしぶ上着を貸そうとした。
だが、その時。
こいつはむくりと起き上がり、よろよろと俺の席に来ると、そのまま俺の膝を枕に寝始めたのだ。
痙攣が止まった。
しばらく、状況がわからなく一時停止。
そして、その後には深くかつ盛大なため息が自然とこぼれた。
こいつは、俺を何だと思っているのか。
本当に男として意識されていないのか、それとも頼りにされているのか、枕として。
どっちにしても嬉しくない。
おじさんと仁が、こんな娘にしたんだ。
一体、どういう教育方針なんだ!?
あの二人は思う存分甘やかしてきたんだ。
二人して水野にデレデレして、蝶よ花よ、と育てたに違いない。
普段まともなのは、おばさんの功績だ。
今度会う時は、もう少し愛想良くしよう。
それでも、おばさんはもっともっと厳しく育てるべきだった。
なんせこの箱入り娘はやけ酒で泥酔して、危うくお持ち帰りされそうになったんだ。
これぐらいの分別はあると思ったら、仁のことになると分別は皆無になる。
仁は水野を暴走させるキーワード。
この辺りをしつけてくれていたら、俺がこんな苦労をすることはなかった。