俺は、さんま定食を食べていた。
とある生き物を膝に乗せて。
物事は、それに至るまでに必ず理由がある。
従い、この状況にも理由があるのだ。
まず、俺がさんま定食を食べている理由は、合コンでロクに食べなかったから腹が減ったのだ。
水野を見つけるまでは、取り分けられた食い物をひたすら食べていた。
だが、水野を見つけてからは、言わずもがな。
そして、肝心な、とある生き物だ。
この正体は、言わずもがな、水野。
その水野を膝枕してやっているのには理由がある。
時を遡ること一時間前。
広也が帰った後、水野は、ふらふらトイレから出てきた。
その様子は、盆踊りを踊っているようだった。
去年の夏、祭りに五人で行った時に、盆踊りに参加できなかったことを悔しがっていた。
だから、今、ファミレスで踊っているのかも知れない。
変わり者だが、十人十色。
踊り疲れた水野は、再びソファーに寝転がる。
俺は、その上に水野に踏まれた上着をまたかける。
そして、席へと戻り、ぼんやり窓の外を眺めていた。
「うがっ!あうっ!」
奇妙な声がし、大きな音がした。
ソファーを見るのをすっ飛ばし、テーブルの下を見る。
声をかけることはしない、他に備えなければいけないことがあるからだ。
水野が頭をテーブルにぶつけ、悲鳴を上げる。
オレンジジュースはこぼれない。
俺がしっかり持っていたから。
俺は学習能力があるのだ。
そして水野は俺の上着を踏みつけ、トイレに駆け込んだ。
こいつは学習能力がない。
俺は、寛容な心で、自分の上着を拾い埃を払う。
数十分後、水野はまた盆踊りを踊って戻ってきた。
まだ踊り足りないらしい。
踊り疲れた水野はソファーに寝転ぶ。
俺は、その上に水野に踏まれた上着をまたかける。
ここまでは同じだった。
だが、水野は唸り声を上げながら、もぞもぞ動き。
俺が親切にもかけてやった上着を、ぐちゃぐちゃっと丸め、枕にしたのだ。
俺は寛容な心を……
持てなかった。
口元と、眉が痙攣を起こした。