「俊!お前な。自棄に……あ!いや、こいつ酔ってるんだ。俊、もう飲むな。失礼だぞ」
失言を取り繕いつつ、広也は俺から酒を取り上げ、すぐさま斜め前の安住が水を差し出した。
「酔ってない。お前ら自分の顔を見てから言え」
俺は酒は強いんだ、頭だって冴えている。
もちろん、自棄になっているわけでもない。
断じて。
「だいたい、俺に彼女を作らせるためにここに呼んだのに、何で邪魔をするんだ?」
こいつらのやっていることは矛盾だらけだ。
「お前の一方通行だ。里香ちゃんだって断りにくいだろ?」
黒澤に俺の酒が回り、それを奪い返す前に慌てて飲み干される。
「そんなことないわ。俊君とずっと一緒にいたい」
そう言い、俺の腕に自分の腕を絡め、胸を押し当ててきた。
ワンピース女の名前は里香と言うらしい。
こいつの名前ぐらい覚えておいたほうが良いな。
とにかく、これで決まりだ。
もう、こんな場所にいる必要もない。
女を連れて立とうとした時、ごつい男の声がした。
「小春!こんなところで潰れるな!家まで耐えろ!」
ガキ大将もどきは水野をゆさゆさ揺すっていた、そして、何とか水野を立たせる。
だが、一人でまともに歩けないようで、肩を抱き寄せるように二人は席を立った。
「おい、お前、あれはマズくないか?かなりヤバいぞ!!」
そう言って、広也が二人を追いかけようとする。
それを後ろ襟を掴み、制す。
「ほっとけ。あの馬鹿は痛い目に合わないと学習しない」
俺の冷ややかな視線に広也も同じ視線を返す。
「……あっそ。確かに俊の言う通りだな。人の恋路を邪魔するのも無粋だしな」
そして、広也はにこやかに栗毛の女と話を再開させる。
目の前の取り分けられた、サラダを口に入れる。
味がしない。
自分がどれだけ、馬鹿で無防備か思い知れば良い。
ああいうのは、いつか悲惨な目に合うのが世の常だ。
自業自得だ。
自分の愚かさを死ぬほど後悔すれば良い。
そう思うのに。
そう思うのに、俺は札を何枚か叩きつけるように置くと、上着を手に持ったまま走り出す。
「俊君!?」
ワンピース女の声が走り出す瞬間聞こえた。