「姉貴に一位も人気もことごとく奪われた腹いせが、その弟と寝るなんて、本当に小せぇ女」
姉貴と高校時代からの友人であるこの女は、俺を遊び相手にしていた。
それは俺も同じ。
姉貴と同じく東京に進学したこの女が実家に帰ってきた時だけの関係。
就職したと同時にその関係も終わったが、まさか東京で会うとは思わなかった。
姉貴の行きつけの店だ、この女がいても不思議ではないが。
「あなたたち姉弟って、本当に最低。人の欲しいものを何もしないで手に入れるくせに、興味ないっていう顔。消えて欲しいわ」
女は手で、煙草を寄越せと合図した。
ベッドに置かれてあるケースから一本抜き取って、ソファーに移動した女に乱暴に投げる。
こんなものの、どこがうまいのかさっぱりわからない。
それでも、今は吸いたくてたまらない。
ライターで火を点ける間さえ、苛立つくらいに。
「ただの逆恨みだ。能力のない自分を恨め」
消えて欲しいと言いながら、姉貴と仲の良い友人を演じているこいつは、わけがわからない。
女はそれに答えず、口元を歪める。
「でも、俊君はそうでもないみたいね。手に入らないのが、みずのちゃんなわけね」
煙をふかしながら、ソファーに肘をついて俺のほうへと身を乗り出した。
「俊君がうわごとで女の名前呼ぶなんてね。好きな子に見立てて抱いた気分はどんな?」
女は口元に長い指を寄せ、見下すような笑みを浮かべた。
この女は本当に刷れてる。
内面がぼろぼろだ。
数年経っても変わらない。
きっと、それは俺も同じなのだろう。