「最低ね」
俺にしがみついていた女は、俺の背中を長い爪でひっかいた。
突然走った痛みに、眉をしかめる。
女は俺の頬を一撫でするとガウンを羽織り、ベッドから軽やかに降りた。
そして、唇を嘲るように吊り上げ、俺に嫌な視線を送ってくる。
背中を見ると、血がうっすら出ていた。
ヒリヒリするわけだ。
俺は女を冷ややかに睨みつけた。
「みずの、って苗字、それとも名前?」
息を呑んだ。
心臓が跳ね上がり、痛みが一瞬で消え去る。
驚きを顔に出したようで、女は楽しそうに笑った。
「無意識なんだ?本当に最低ね。他の女の名前を呼びながら抱くなんて」
自分の馬鹿さ加減を呪った。
そんなに酔っていたのだろうか、その名を呼ぶほどに。
呼んだ記憶もなければ、呼んでないと言い切れる記憶もない。
見事に酒に飲まれて、女に溺れていたようだ。
言葉がなかった。
「しかし、明美が私たちの関係を知ったら、何て言うかしらね?」
くすくす、口元に手を当てて笑う。
「何か言われる前に、殺されてる」
話が変わったことに少しほっとする。
姉貴に知られれば、二人とも問答無用で張り飛ばされ、次の瞬間には蹴りが炸裂することだろう。
「ふふ。明美ならやりかねない。それでも明美の知らないことがあるっていう優越感は捨てられないわ」
手入れの行き届いた茶髪を耳にかけながら満足そうな笑みを湛える。
くだらない優越感に良く浸れるものだ。