ホテルに着く間、佳苗はしきりに水野のフォローをしていた。


 はっきりってどうでもいい。


 あんなに好きだったのに、それが嘘に思えるほど嫌いになれた。


 あいつは嘘吐きだ。


 何が、諦めただ。


 諦めていないにしても、普通あんなことは言わない。


 佳苗の両親もいる中で、自分のことしか考えてない。


 周りをまったく気遣えない。


 そういう配慮さえできない女なのだ。


 最悪な女だと思う。


 憑き物が落ちたかのようだ。


 盲目な恋から、一瞬にして目が覚めた。


 しかし、あの水野の発言に立ち止まりはしたものの、すぐにホテルへ向かって歩き出した、おばさんたちはすごいと思う。


 水野の暴走を止めることを放棄したに違いないが。


 だが、佳苗の両親も水野が仁のことを好きだったのを知っていたのだろうか?


 やっぱり今も、四人そろって、若いな~、なんて言いながらのん気なものだ。


 あれは若さじゃなくて負け犬の遠吠えですよ、って言ったら、それが若いのよ、と返された。


 あの見るに耐えない無様さが若さなら、早く歳をとりたいものだ。


 まだ二人が来ないから、食事が運ばれて来ない。


 席を立ち、トイレに向かう。


 鏡を、ふっと見ると、何とも情けない顔が映し出された。


 本当に情けない。


 あんな女に惚れて、追いかけまわしていた自分が。


 あいつには理性のかけらもない。


 自分の言動がどんな影響を与えるのか考えもしないで不用意に何でも言ってしまうし、やってしまう。


 昨日、いや、これまでの俺への言動にしたって無神経だった。


 さっきの言動はその極み。


 水野の軽はずみな行動のせいで、食事の時間は刻々と過ぎていく。


 両家の親交の時間を水野ただ一人のせいで減らしていることも、あいつは気づいていないのだろう。


 そういうことを考えることができない、単細胞。


 ああいうタイプは俺が一番嫌う人間だ。


 周りが見えない馬鹿女なんて、最悪だ。


 まぁ。


 これで俺の目が覚めたんだ。


 良しとするか。