「おい。行くぞ」



 水野と仁に声をかけて、視線を向けると。


 俺に背を向けているから表情はわからないけど、水野が俯いていることに違和感を覚えた。


 歩み寄ろうとする前に、佳苗に手を掴まれた。



「先に行こう」



 ちっこいくせに力は強く俺は佳苗と歩き出した。


 歩き出す前にもう一度、二人を一瞥する。


 仁は穏やかに水野を見つめ、水野は俯いている。


 不思議に思いながらも、佳苗に引きずられるように歩いた。


 そして、二人と少し距離が離れた頃、大声が庭園に響き渡った。
























「ねぇ、仁くん!どうしてれば私が仁くんの隣にいたのかな!?」



 唖然として、声がした方に目を向けると、さっきまで俯いていた水野が夕焼けに向かって叫んでいた。


 それは仁だけではなく、俺たちにも聞こえ、全員が立ち止まり振り向いた。



「どこかで、違う選択をしていたら私が仁くんの隣にいたよね!?どこで間違えたのかな!?」



 足が勝手に動いたが、佳苗に手を掴まれ阻まれる。


 佳苗の目が、行くな、と訴えていた。


 その間にも水野は大声で喚いていた。


 さっきまで、いつも通りの水野だったのに。


 ずっとずっと、気持ちを抑えて演技をしていたのだろうか?


 まだ仁が好きなのだろうか?


 俺ではなく。



「仁くんが東京に行った時、私もついて行けば良かったかな!?それとも泣いて引き止めれば良かったかな!?」



 震える声で。


 めいいっぱいの力で叫んでいた。


 こんなに離れていても、うるさいくらい大きな声で。


 俺は佳苗の手を振り払う。



「どうすれば、こんな思いをしなくて済んだかな!?幼馴染じゃなかったら、私と仁くんはどうなってたのかな!?」



 ずっとそんなことを考えていたのか?


 負け犬の遠吠えだ。


 そんなことを今喚いたところでどうにもならない。


 それを水野自身だってわかっているはずだ。