で、土曜日。
俺は道場でいつも通りに身体を動かす。
水野と手合わせをしたのは最初の頃だけだ。
もう一年半以上前の話。
女と手合わせするのは、やはりどこか気が引けるのだ。
特に水野は負けず嫌いで何度でも起き上がるから尚のこと。
「水野」
稽古が終わり、着替えようとする水野を呼び止める。
こいつは今日もガキのお守り。
おせっかいババァからおせっかい糞ババァに格上げされていた。
懲りないやつだ。
身体を動かして気分を紛らわせたいから来たくせに。
「手合わせ、付き合ってやる」
水野はきょとんと、首を傾げた。
すたすたと水野に歩み寄り、何も言わず、背負い投げをした。
我ながら上手い投げ方。
投げ飛ばされた水野は、へたり込んだまま俺を睨みつけた。
「ちょっと!!何するのよ!?」
「受身取れたんだから平気だろ?」
「いきなり投げるなんて最低だわ!」
水野は立ち上がり、俺を指差し喚いた。
「ぼけっとしているお前が悪い」
しらっと、言いながらまた背負い投げをする。
こいつは学習能力がない。
「榊田君!一体、さっきから何なのよ!?それにどうして背負い投げ!?」
「ああ。俺、柔道もガキの頃やってたから。上手いだろ?」
姉貴に殺されかけてから、俺は空手だけでなく柔道と剣道も始めた。
かなり習い事に熱心な小学生で、感心されたものだ。
命を守るための手段だ、熱心になるに決まっている。
大人はのん気だと呆れていたあの頃が懐かしい。
しかし、高校生になると忙しくなり空手以外はやめてしまった。
それでも十年近くやっていたから、そこそこできると自負している。