「お待たせ!」
ロープをくぐる姿が目に映る。
馴れ馴れしく話しかけてきた女たちも連れが女ということで、話しかけるのをぴたりとやめた。
水野の手には二本のチュリトスがあった。
「どっちが良い?」
目の前に差し出された。
「お前が買ってきたんだ。好きなほう選べ」
俺は何でも食べるし、好みもない。
「なら、半分ずつにしない?」
まぁ、それが一番だな。
俺はとりあえず美玖と同じチョコを手に取った。
「榊田君!半分まで」
目ざといやつだ。
交換するついでに、水野はカバンから飲み物も取り出し俺に手渡す。
何口か飲んで、水野のカバンに仕舞い込む。
阿吽の呼吸とでも言うのか、この何も言わずとも伝わる関係は恋人としてしか映らないだろう。
「お兄ちゃん、こういう場合、彼女のカバンを持ってあげるのが常識だよ」
そんな常識聞いたこともない。
「平気だよ。重たくないし」
「お兄ちゃんって気が利かない。こういうのをさりげなくできないところが経験値の低さだね」
美玖は肩をすくめて首を振った。
「それなら榊田君は経験値高いな。いつも食材は持ってくれるし、重い荷物も何も言わずに持ってくれるもの。榊田君は気が利くし、優しいわ」
水野は美玖に力説した。
毎回美玖の肩を持つくせに、今日は俺の肩を持つんだな。
「小春ちゃんには人並みのことしてるんだ。私たちの荷物は嫌々持ってたくせに」
美玖は胡散臭そうな目を俺に向けた。
そうだ、俺はしっかり状況を見極めてる。
何が何でも、カバンを持てば良いってもんじゃない。
経験値の高さではなく、頭の良さだけど。
「榊田君は誰に対しても優しいよ!……でも、私に対しては特に優しいかも」
上目遣いに俺を見て、恥ずかしそうに微笑んだ。
寒空の中にいるというのに、何だか暑いような気がする。
「あ~!やっぱり首筋掻いてる!!」
お兄ちゃんって単純!と、俺を指差し笑った。
こいつの発言で体温が元に戻る。
本当にお邪魔虫だ。
迷子センターにでも預けてくるか。