朝、美玖の言われた通りの服を着て、髪の毛には軽くワックスが付けられた。
美玖は角度を変え、入念なチェックをしている。
俺が美玖にされるがままになっているのは賭けをしたからだ。
水野が俺を褒めなかったら、もう水野を使って要求をしないと美玖は言った。
悲しいことかな、水野に容姿や服装で褒められたことは一度もない。
今回も、「髪、切ったんだ。さっぱりしたね」で終わるだろう。
今日は駅で待ち合わせをした。
水野は朝が苦手だが、十分前行動を心がけているやつだから、少し早めに家を出る。
そんな俺を美玖が呆れたように見るが、無視を決め込んだ。
水野はすでに来ていて、俺たちを見つけ、ほんわか微笑んだ。
「どうして、榊田君がいるの?大学でしょ?」
挨拶の後の第一声がこれだ。
美玖と二人で行くつもりでいたのか?
俺がお邪魔虫みたいな扱いだ。
「いや、今日は休講」
「嘘!ダメでしょ!サボっちゃ!」
朝から、説教とは元気なやつだ。
「嘘だって言う証拠がどこにあるんだ?」
わかりきった嘘だが、もう押し切るしかない。
「榊田君。あなた嘘を吐く時、首筋を掻く癖があるんだよ?」
得意げに胸をそらせる水野。
「そうなの?」
そんな水野の腕に美玖は絡みついた。
「とは言っても、わかりきった嘘しか言わないから、役には立たないけどね」
そんな癖があるのか?
癖だからわからないのかもしれないが、本当か怪しいものだ。
「なら、本当に嘘を吐いてる時はその癖はでないの?」
そう美玖が聞くと、水野は微笑んだ。
「榊田君は私に嘘吐いたりしないもの。私を騙すことは絶対にない」
「ふ~ん。意外と信用されてんだ。お兄ちゃん」
べったりと水野にくっ付いたまま俺を見た。
「あっ!自惚れだったかな?」
急に水野が心配そうに俺を見上げた。
「いや、俺がお前に嘘吐くわけないだろ」
そう言うと、水野は頬を染めて、はにかんだ。
この表情だ、この表情。
マイナスイオンが身体を巡り、気分が良くなる。