「別にお兄ちゃんはいらないよ。男だし。それにスーパーで買った服でもブランド物に間違われてるんだから」



 大学でも変わらず、どこで服を買っているのかと聞かれる。


 スーパーの衣料品コーナーだと言うと、男は面白くないというように眉を寄せ、女は似合ってると、とにかく褒めちぎる。


 果たして、スーパーの服が似合ってるのが褒め言葉なのかはわからないが、どうでもいい。



「間に合ってる。それより今日の夕食は焼肉にしないか?」



 昼飯が終わったばかりで気が早いが、俺の楽しみはこれだけだ。



「俊。その頭と言い、服装と言い、まるでなってない。だから小春に振られ続けるんだ。たまには格好良く決めて、小春を一気に落とせ」



 姉貴は悪気がまるでないように、拳をぐっと握って妄想に浸っている。



「姉貴。俺は姉貴に似て顔が良いとか何とか言ってなかったか?俺の気のせいか?」



 口を引きつらせながら、俺は尋ねた。



「その通りだ。元が良いのに、今のお前は魅力が猫の額分くらいしか出てない」



 美玖は遠慮なくゲラゲラ笑う。



「た、確かに。伸び放題で寝癖はあるし、前髪が目にかかって、ただでさえ目つき悪いのにさらにひどくなってるし!人相最悪。小春ちゃんに振られるわけだ!服も丈が合ってないし、だらしなく見えるかもね」



 その通り、と姉貴は首を振る。



「服も自分に合ったものをしっかり着ないとダメなんだ。何だ、そのズボンにコートは。安物なのが丸わかりだ。明日はデートなんだろう?勝負着が必要だな」



 そして、俺は姉貴御用達の美容室に押し込まれた。



「私と美玖がお前に似合う服を探しておくから安心しろ」



 それだけ言うと、二人は去っていった。


 そして姉貴御用達の美容師に切ってもらう。


 ただでさえ悪い人相が余計に悪くなる。


 もうこれ以上は無理だというぐらい眉間に皺が刻まれている。


 拳をぐっと握り締めた。


 水野、お前、覚えてろよ。


 アホ面の水野を思い描き、頬に赤の油性ペンで渦巻きを書いてやった。


 本日三度目の、水野のアホ面だ。