そして、土曜日。


　水野の希望通り、俺は姉貴と美玖と三人で出掛けた。


　出掛けた場所は最近オープンしたばかりの水族館。


　俺は車の運転をさせられた。



「たまには運転しておかないと、小春の前で赤っ恥をかくぞ」



　水野が来ないことをひどく残念がりながらも、三人で出掛けられることを姉貴は喜んだ。


　三人で出掛けたことなんてない。


　もちろん、俺が行かないからだ。


　それなのに、この歳になって仲良し三人組みを何故演じなければならないのかと思うとため息がこぼれそうになる。

















「さすがに新しい水族館だ。綺麗！」



　美玖はガラスにへばりつき魚を眺めていた。


　俺に向ける陰険さがまるでない、今時の女子高生に見える。



「食えない魚しかいないじゃないか」



　俺はポケットに手を突っ込み、吐き捨てる。


　そんな俺を、美玖が白い目で見る。


　情緒もへったくれもないと、目が言っていた。



「そうか、そうか俊は食い物に目がないもんな。良し！夕食は寿司屋に連れて行ってやる」



　姉貴は笑いながら、俺と美玖を交互に見て満足げに頷いた。


　今日、来てはじめて良かったと思える瞬間だった。


　そして俺の予想通り、姉貴が連れて行ってくれた寿司屋は回転ではなかった。


　目の前で捌かれる魚が食欲をそそる。


　気前の良い姉貴は、てっさも頼んだ。


　やっぱり、新鮮な魚を使った寿司は違う。


　どんなに食べても、姉貴は怒るどころか、嬉しそうに目を細める。


　姉貴は俺と美玖が可愛くて仕方がないという、姉馬鹿なのだ。


　俺がそっけなくても、まったく気にしない。


　寛大というより、人の話を聞かないから、俺の態度なんてどうでもいいのだろう。


　とにかく、これで水野との約束を果たした。


　今日は美玖も姉貴の家に泊まるし。


　明日は一人でのんびり過ごそう。


　最後のてっさを口に入れながら、俺はそんなことを考えていた。