「相変わらず、鬱陶しいやつだな」



 俺と別れた後、別の男と付き合いだしたと風の噂で聞いたが、廊下ですれ違うたびに潤んだ瞳で見つめられ、うんざりしたものだ。



「まだ未練たらたらって感じでさ。あれだけのことされて、まだ好きなんて、どうかしてる」



 俺の卒業と同時に入学した美玖が国枝のことを知っているのは、俺の悪名が俺がいなくなっても、語り継がれている証拠だ。


 どうしてこうも、噂話が好きな連中が多いのだろうか。


 噂されているほうの身にもなれ。



「まったくだ。で、しっかり追い返したんだろうな?」



「私だって迷惑だったから、デマだって言って帰ってもらった」



「上出来だ。だが、お前が目障りなのは変わらない。実家に戻れ。遅くても日曜までには」



 客用の布団を取り出し、美玖に向かって投げ捨てた。



「こんなお兄ちゃん見たら、国枝さんはどう思うのかね」



 顔面に布団が直撃し、髪が乱れているその姿こそ、いい気味だ。



「私も小春ちゃんが気に入ったの。だから小春ちゃんと遊べるまで帰らない。邪魔すれば私の滞在期間が延びるだけ。せいぜい、私を怒らせないように」



 椅子から軽やかに立ち、シャワー借りるよ、と言って部屋を出て行った。


 疫病神二号だ。


 俺は深々とため息を吐いた。