そして、俺の家に泊まると言い張った美玖を、姉貴の家に泊まれ、と拒絶するが、水野がそれなら私の家に泊まって、なんて言うから結局は俺の家に泊めることになった。
この時には、俺には抵抗する気力もなくなっていた。
「明日は、三人で楽しんできてね」
「小春ちゃんも。月曜日楽しみにしてるから!」
美玖はぶんぶん手を振り回して、別れを告げた。
水野のアパートから俺のアパートまでは徒歩五分。
その間、この北風より寒い冷気が俺たちの間をすり抜けていた。
部屋の電気を点けたところで、美玖が堪らず笑い声を上げた。
それは、それは楽しそうに。
「強気だったくせに、やっぱり小春ちゃんには従順だ。捨てられないように必死だね。傑作だ!」
「いい気になるな」
低く、冷たく言い放つ。
「それはこっちのセリフ。お兄ちゃんの悪名のせいで私がどれだけ嫌な思いしてると思ってんの?」
美玖はキャスターつきの椅子に座り、くるりと回転させた。
「なら姉貴の高校に行けば良かっただけだ。お前が俺と同じ高校選んだんだろ」
「明美姉は人望があるもん。それはそれで嫌だ。どうして二人とも目立つことするのかな。本当に迷惑」
「それで俺に腹いせしようってわけか」
美玖は、足を組んで鼻を鳴らす。
「せいぜい私の機嫌損ねないことだね。小春ちゃんに、バラされたくないことたくさんあるでしょ?お兄ちゃんの女遍歴聞いたら卒倒しちゃうよ。純情そうだし」
こいつの笑い方は吐き気がする。
毒の塊みたいな笑い方だ。
「残念だな。あいつは、知ってる」
だけど、今の俺を評価してくれているから問題はない。
「でも、お兄ちゃんがどれだけ冷酷かは知らないでしょ?そういえば、国枝さんが家まで押しかけてきたんだよ。本当にお兄ちゃんに彼女ができたのかって。国枝さんのこと話しても良いの?」
その名前を出されると、条件反射で眉間に皺が寄ってしまう。
明らかな脅しだ。