水野に惚れたことを認めたは良いが、それからが前途多難だった。
相手には好きな男がいる。
しかも、このお盆で急接近らしい。
付き合い始めなかっただけ、救いだ。
意外と仁は度胸がないな。
顔だけで選ぶとロクなことがないぞ、と水野を諭してやりたい。
実際は顔に惚れたわけではないようだが。
ここで告白したところで振られるのは確実。
水野の場合、俺の気持ちを知ったら、この偽恋人の役を降りるに決まってる。
それだけでなく、よそよそしくなる可能性だってある。
良いことなしだ。
今の位置をキープして振り向かせる。
これが最善。
しかしどうやって?
これが問題だ。
女を口説くなんて考えたこともない。
女なんて向こうから寄ってきて、気が向いたら相手をするものだと思っていた。
こんなことなら自分に気のない女を一人くらい口説いておけば。
口に出して言えば、親父たちに殴られそうなことを本気で思った。
広也に打ち明けて相談しようかとも思ったが、あいつの女ならば誰でもお世辞を言う流儀が水野に通用するとは思えない。
実際通用してないし。
周りが俺の態度がわかりやすいと笑うほどに、水野を特別扱いしているのに当の本人は気づかない。