「お前、平気なのか?」



 梅雨も空け、夏真っ盛り恒例の夕食の時に俺は尋ねた。


 明日は仁の家に遊びに行くことになっている。


 二人が結婚して、一緒の暮らしている姿なんか見たくないだろうに。


 わざわざ傷に塩を塗りこむなんて馬鹿なことを、と思ったが水野は平然としたものだ。



「平気だよ。もう諦めてるから」



 最後まで粘ったのに、引いた後は実に潔いやつだ。


 下手な笑顔を張り付けている姿を見ることにならないことを願いながら追及することはやめた。



「そうか。あんまり無理すんなよ」



 そう言うと、水野は柔らかく微笑んだ。



「榊田君がいるもの。大丈夫。いつもありがとう」



「何にもしてないだろ」



 本当に何にもしてないから、御礼を言われても困る。


 というか、うまい飯を食わせてもらってるし。



「こうやって榊田君と過ごせてることが私の救いだよ」



 こいつの何気ない言葉や微笑にはマイナスイオンが相当配合されているらしい。



「俺はお前のこと好きだぞ」



 雰囲気が良かったから、言ってみた。


 俺の告白はいつも突然らしく、水野は息を呑む。


 好きだと思った時に言ってるから、突然で当たり前だけどな。



「ごめんなさい。あの、期待持たせるようなこと言ちゃったね」



 そうして、いつもこうやって断られる。


 何回も繰り返してるのに俺も水野も慣れない。


 振られる俺も、振る水野も。


 でも、言わないことには、はじまらないから仕方がない。



「別に。俺と一緒に飯食うのが嫌じゃないみたいだから安心した」



 これも本心だ。


 内心、面倒くさいとか思われてるんじゃないかと少し心配していた。


 振った男と一緒に飯なんて、厄介だと思う。


 俺が逆の立場なら、こんな申し出は一蹴してる。


 相手にするわけがない。


 実際、振ったのに付きまとわれれば鬱陶しいし、気味が悪い。


 だからこそ、水野の性格が俺とは違って感謝だ。


 そうでなければ、気味悪がって俺とは話してくれなくなっていただろう。



「一人で食べるよりずっと良い。それに榊田君の料理おいしいし」



「そりゃ、どうも。で、明日も平気か?」



 いつもと同じように尋ねると、水野は首を大きく縦に振った。


 何もかもが平穏で、今のところこれで満足だ。