「水野の幸せを考えてるって言ったよな?ならお前の出る幕はない。お前は佳苗のことだけを考えてれば良い」
「小春に本気らしいから、今回だけは見逃して邪魔はしないでやる。だが、小春はお前が女たらしなのは知ってるぞ」
「お前の根拠のない直感を水野は信じたわけか」
あいつは純粋に仁だけを思ってきたようなやつだから、俺に嫌悪感を抱いたかもしれない。
最悪だ。
俺の苦々しげな顔を見て、仁は意味深に笑い、付け加えた。
「良いことを教えてやる。この間、榊田は女にだらしないからやめておけ、って小春に言った」
どこが良い話だ。
「お前は日本語がわからないやつなんだな」
俺の言葉には構わず、仁は何杯目かの酒を飲みながら続ける。
「そしたら小春は『昔はそうだったかもしれないけど今は違う』って俺を睨みつけた。お前に苛められた後なのにお前の肩を持つなんてな」
驚きや嬉しさもあったが、こんな話を俺にする意図が気になった。
「で、何が言いたいんだ?」
「つまり、女たらしは小春を落とせない理由にはならないってことだ。落とせなくてもそれを言い訳にするなよ。お前が小春を諦めて退散していくのを楽しみにしてる」
仁に、にっこりと笑顔を向けられ、ぞっとした。
水野に俺の高校時代の行いがバレたら、眉をしかめられると思ったが、今の俺を評価してくれてるようだ。
それなら、可能性はさらに広がった。
仁も邪魔をしないと約束したんだ、じっくり水野と過ごして落としていこう。
俺に水野は落とせないっていう妙な自信はどこから来るのか。
こいつのほうがよっぽど自惚れた自信家だ。