「そうだ。お前、小春に何か言っただろう?恐らく、俺とのことで」
破り捨てたカードに吸殻を落としていた手がぴたり、と止まる。
「お前ぐらいしか心当たりないんだよな。小春の気に障るようなこと言うやつ」
俺の表情を窺いながら仁はゆっくり話す。
「それは幼馴染の勘か?」
「この間、非常に様子がおかしかった。泣きそうな顔して笑ってた。きっとお前にはわからないんだろうな。何でもない風に見えるんだろうな。だから、平気で暴言が言えるんだろうな」
水野が何か話したわけではなさそうだ。
それでも、仁は水野の異変にすぐに気付き、その原因が俺だと確信しているようだ。
千里眼でもあるかのように水野の性格だけでなく、俺の性格や俺と水野の関係性を正確に把握していた。
「何を言った?」
やっぱり、気にしてたんだ。
それはそうだろう。
水野は俺に仁の話をしなくなった。
俺が聞いても一言、二言。
これは仁の水野へのフォローがないとダメだ。
俺があれは口が滑った、なんて言っても解決しない。
カードに吸殻を押し付けて重たい口を開く。
俺が話す間、仁は表情を変えずに煙をふかしていた。
話し終えると、仁は煙草を苛立たしげに灰皿に押し付けた。
破り捨てたカードは完全に吸殻まみれで判読不能。
「お前、小春から手を引け」
「お前の指図は受けない」
「そうか。なら小春に榊田はやめておけ、って言うだけだな。そうすれば、お前は正真正銘ただのお友達だ」
挨拶でもしているかのように、さらりと言う。
「お前には関係ない話だろ?どうして、そう邪魔をしようとする?」
仁の言葉に水野は影響されやすい。
こいつの言葉を神のお告げが何かと勘違いしている節がある。
「お前に言えることか?俺の気持ちを勝手に捏造して、小春を傷つけたお前が?」
「その前から口出ししてるじゃねぇか。佳苗がいるのに、水野に男を寄せ付けないようにするのは勝手だと思わないのか?」
水野のこと振ったくせに、別の男と付き合うのは嫌だ、なんてあまりに勝手過ぎる。
「気に食わないんだ。仕方がないだろ?」
悪びれる様子もなしに言う。
こいつの一言で俺が何をしても無駄になる。