水野にとって、『仁』とは『神』と書くのではないかと本気で思った。


 こんな女と付き合うなんて、こっちから願い下げだと頭では思いながら。


 心では惹かれていた。


 こんな重たそうな女ごめんだ。


 そう思いながらも、そのひたむきさを自分に向けて欲しいと思った。


 仁のことを話す水野の表情は生き生きしていて、それを見るのが好きだった。


 可愛いかった。


 だが、この頃には忌々しさも感じていた。


 飾られている写真にこっそり念じてみた。


 振られろと。


 お盆に仁と一緒に実家に帰れるなんて浮かれている水野に、泣いて実家から帰って来いと。


 だが、水野の話を聞いていると、仁も水野のことが好きなのではないかと思う。


 だから俺の思い通りにはいかないことも見当がついた。


 その予想は見事に当たり、とびっきりの笑顔で水野は戻ってきた。


 そして、仁との幸せな時間を思い出しながら、一生懸命俺に話した。


 俺は、聞いてはいるが水野に視線を向けずに、ひたすら夕飯を食べた。


 仁のことを話す時が一番良い顔しているのに、見たくない。


 もう、これは否定できない。


 認めざる負えない。


 水野に惚れていた。


 こんな無神経で鈍感で、重たそうな女なのに。


 そのひたむきに仁を追いかける姿を自分が追いかけていた。


 まっすぐで、そのためだけに突っ走る姿は、かなり格好悪い。


 だがすごく良いと思った。


 それを仁ではなく俺に向けさせたい。


 幸せそうに、へらへら俺に笑いかけて欲しくなった。


 水野がいない間、物足りなさを感じた。広也と上原のからかいはいつものことだが。


 瀬戸にまで。



「小春ちゃん、早く戻ってくると良いね」



 とにっこり言われた。


 ため息を思わず吐いた。


 気づかないのは水野の馬鹿だけだ。