「仁を好きでも構わない。あいつのことは直ぐにでも忘れるべきだ。試しに付き合ってくれ。意外と惚れるかもしれないぞ」
まっすぐ水野の目を見る。
はぐらかされないように。
俺の本気が伝わるように。
「榊田君を使って、吹っ切るなんてごめんだわ。私にだってプライドはある」
こいつは、妥協も狡さも知らない。
意見を曲げることはないだろう。
これも予想の範囲内。
水野がこんな提案に乗ってくれるとは思ってなかった。
「なら、友人としてで構わないから俺と過ごす時間を作ってくれないか?」
俺の狙いはここにある。
水野は訝しげに俺を見た。
「土日のどちらかは俺と一緒に過ごしてくれ。あと、平日の夕食も用事がなければ一緒にしたい」
水野が口を開こうとする。
これは断る顔だ。
「別に無理に好きになって欲しいとは言ってない。友人としてで構わない」
水野は乱れてもいない髪を掻きあげた。
「榊田君に余計な期待を持たせたら、かえって傷つけることになる」
「それは俺の決めることだ。第一、傷心のお前を狙って口説くなんて言う卑怯なことしてるんだ。お前が気遣う必要はない」
水野は人の好意を無碍にできない。
それを使わない手はない。
どんなにしつこくても邪険には扱えない、お人好しだ。
粘るが勝ちだ。
おばさんも強引さが必要だと言ってたしな。
「頼む。良いだろ?何か条件があれば聞く。何が不満なんだ?」
「こんな夕食を頻繁にしてたらお金がかかる」
千円弱の夕食は、一人暮らしの学生には高過ぎる。
そんなことは俺も承知済みだ。
「どちらかの家で食べれば良いだろ?元から外食のつもりはない。二人で食えば安上がりだ」
水野の飯も食えて一石二鳥だ。
それでも、水野はためらう。
これは何か違うことが気がかりなんだろう。
「お前がためらう理由はなんだ?何か嫌なことがあるなら言ってくれ」
これは好きになってもらうためにも、聞いておきたいことだ。
じっと水野を見る。
ちらちら、上目遣いで俺を見た後、ようやく口を開く。