「なぁ?俊、馬鹿だろ?アホだろ?」



 俺がいつも広也に言っているような言葉を返される。



「うるさい」



「そうやって誤魔化す。小春ちゃんみたいな子がタイプなら紹介するぞ?5人で仲良くやっているのに、こんなことがこれから頻発するのは俺たちごめんだぞ」



「水野以外に興味はない。他の女なんて願い下げだ」



 吐き捨てるように言った。



「それだよ、それ。何でそれを小春ちゃんには言わないんだ?」



 呆れたように言葉を投げかけられる。



「はぁ?」



「小春ちゃんが幼馴染のことばっかり気にするのが嫌だったなら、『他の男の心配ばかりされると腹が立つ』とか何とか言えば良い話だろ?」



 俺は押し黙る。




「何で故意に傷つける言葉を使うのか、俺にはさっぱりだ。『目には歯を。歯には牙を』か?小春ちゃんに対しても」



 俺が何も言わないのを良いことに、広也の説教は続く。



「謝罪の言葉は一つでも良い。けど、惚れた女の子にそれを伝える言葉は増やしたほうが良いぞ。俊の場合、嫉妬で愛情表現が明後日の方向だ」



 こういう話になると広也には勝てない。


 ため息を吐く。



「俺はお前と違って、悪趣味な口説き文句は言えない」



「そうか。なら小春ちゃんは諦めるんだな。そうやってプライドに拘るなら」



 水野を手に入れるためなら何でもすると決めたから、別に言えないことはない。


 セリフは思いつかないが、考えれば出てくるかもしれないし。


 問題はそれを俺が言って、水野がどう思うかだ。



「お前みたいなセリフを言えば、少しは前進するか?」



 効果はあるなら、喜んでやる。


 尋ねてみると、広也は細めていた目を大きく見開いた。


 呆気に取られ、頬杖が崩れる。


 そして、口に拳をあて笑い出した。



「ま、まさか!じ、冗談だって。本気にするなよ。お前が『君は僕の太陽だ』とか言ったら、小春ちゃんは鳥肌を通り越して、鳥になる!」



 俺が真剣に聞いているのにこいつは。


 キッと睨みつけると、笑いを必死に押し込めた。


 いや、押し込めようとした。



「べ、別に、好きな気持ちを伝えるのを忘れるなってことだ。『好きだ』って言い続けてれば、いつかは報われるんじゃないのか?少なくとも言わなきゃ、一生報われない」




 それならできる。


 『好き』なら躊躇いなく言える。


 今日の失態をどうにかして、取り戻さなければ。


 傷つけたことは取り返しがつかない。


 だからこそ、喜んでもらえることをしていかなければ。