「ごめんなさい。私はいつも榊田君に不愉快な思いさせてるね。榊田君の言ってることは正しい。傍から見てれば気持ち悪いよね」




 あ?


 今、何て?


 怒らないどころか、謝ったか?


 予想外だ。


 マズい。


 やり過ぎた。


 俺は失態を犯した。


 言葉がなかった。




「でもね。仁くんは『可愛い子と一緒に歩けて嬉しい』って言ってくれるよ。子守だとは思ってるかも知れないけど。迷惑だとは思ってない」



 きっぱり言い切った。


 この際、水野の発言なんてどうでもいい。


 問題は口調と表情だ。


 いつも通りだ。


 水野に変化はない。


 だからこそ、これは失態だ。


 最悪だ。


 傷ついてないはずがない。


 ここまで言われて。


 あまつさえ、仁に振られたばかり。


 今の水野にとって、これ以上傷つく言葉はないだろう。


 こういうやつだ。


 こいつは傷ついても、嫌なことがあっても顔に出さない。


 そんなことはわかっていた。


 でも。



「ひどいじゃないか!!小春ちゃん!!俺とのデートの時はめかしこんでくれないなんて!!いや、十分可愛いけど。でも、ひどいよ。俺は夜も眠れないほどいつも楽しみにしているのに!!」



 広也は伏せって泣いた。


 こいつは場の空気を読んで、いち早く行動する。


 水野と広也の共通点は馬鹿のところと、こんなところだ。



「違うの!!広君!!決して私は広君の時に手を抜いてるわけでは。ただ仁くんとは年が離れているから少し大人っぽい格好を」


 水野が慌てて弁明する。


 その騒ぎがやけに遠くに聞こえた。