ーー好きな人に振られた。1回も話したことがなかったし、当然といえば当然なのかもしれない
ーーーその帰り道、事故に遭った。背中を誰かに押された気がした。
車に轢かれて、次に目が覚めた時。時刻は夕暮れの春景色。なんと告白をする前に戻っていたのだ。
今度こそ、ゆっくりと。時間をかけて落としていくと決めた。
医師によれば事故のショックで記憶が曖昧らしい。
けどそんなこと気にしていられない。
何日も何日もアピールした。好きだ。なんて言えば伝わるのかな。やっぱり恋愛は難しい。けど甲斐あって、一ヶ月後。告白された。嬉しくて嬉しくて二つ返事でオッケーをする。これで晴れて両思いだ。
帰り道。斜め前にずっと好きだった、コハルがいた。
名前を呼ぼうと、声を出すのと同時に
ーーーードンっ
あたりから悲鳴が上がる。キャーキャー甲高い声がうるさい。
コハルが引かれた。トラックに。血の匂いが気持ち悪い。コハルと目があう。痛いのか、その顔は苦痛に歪んでいた。
そのとき、初めて違和感に気付いた。
まさか、と疑問が湧く。
ぐらりと視界が歪んで、自分が倒れるのだなと分かる。
次、目が覚めたとき、確認しないと。
あの日オレの背中を押したのは、
コハルなのかな。
パチリと目を開けると、そこは見慣れた天井。
見慣れた体。見慣れた布団に壁に貼られたアイドルのポスター。
もちろん制服は学ランだ。
季節は春。学校に行く。俺は一度もコハルに話しかけなかった。それなのに一ヶ月後、夕暮れにはコハルに告白された。ごめんって言ったら、泣かれた。帰り道トラックに轢かれた。背中を誰かに押された気がした。そっか。そういうことか。俺、まだ死にたくないな。
目が覚めるとまた、見慣れた天井があった。一ヶ月後、例に倣って学校でコハルに告白された。ナオくんが好きなのって、顔を真っ赤にして。いいよって言ったら、帰り道コハルがトラックに轢かれた。
助けて、助けてと手を伸ばしてくる。
俺はその手を踏みつけて、家に帰った。
end