『乗客の皆様にお知らせします。
 只今、人身事故のため運転を見合わせております。』
通勤によく使う駅のホームで、アナウンスが流れた。俺の都合も知らない周りの奴らはざわざわとしている。
今日は仕事、遅れそうだな。とりあえず上司に連絡をしようと、携帯電話を取り出す。
『すいません、今日はなんか電車が見合わせてて遅れます。』

また今日も何気ない一日が始まると思っていた。
でも、一番の思い出になるなんて俺は知らなかった。

***

俺の携帯電話が鳴った。
『あー、もしもし。俺。翔だけど。』
翔は、俺の高校時代の友達。こんな時間に電話をかけてくるのは珍しい。
「おぉ、どうした」
『直人が死んだらしい。』
直人は、翔と一緒で高校時代の友達。
大学に入学してから、疎遠になった友達だ。
「え?」
死んだ?
『電車にはねられて、そのまま・・・』
言葉が見つからなかった。
「そうか」
そうとしか言えなかった。
『葬式は明日の午後1時から風の国っていう式場であるらしいよ』
「おぉ、そうか」
携帯電話を切ったと同時に、空だった頭に一気に物事が入ってきた。
直人が死んだ。
電車にはねられて、そのまま。